TECH SATURN誌連載のコラム
日記と同じようなところもありますが、媒体が違うという事でご勘弁を。
結局、１１回で雑誌が休刊という事態になってしまいました(^_^;)
ノヴェライズについて
格闘ゲームと格闘
映画音楽の話題
インターネットの話題
最後の記事
載らなかったおまけ
読んでますか、ノベライズ？
〔1996.12〕
アスキーさんからゲーム関係の仕事が入るようになって、もう三年。元々小説家なもので、ノベライズがメイン。これまでにＳＦＣ、ＳＳ、ＰＳで各一本ずつ。ジャンルもＲＰＧ、アクションＲＰＧ、３Ｄ格闘とバラバラで、加えてファンブックでも三本かかわらせていただいた。他にも某社より刊行中のアニメのノベライズもあり、オリジナルの方が少ないという情けない現状である(^_^;) その他、ＷＩＮ９５用のゲーム設定という話も進んでいるので、ゲームライターと小説家のどちらが本業かわからない。 そんな作家がゲームについて語ろうとすると、どうしてもノベライズというものを避ける訳にはいかない。
さて、いきなりだが読者の皆さんにこんな問いを投げかけてみたい。
「あなたはゲーム（アニメでも可）のノベライズをどう読んでいますか？」
ノベライズに限らずオリジナル作品でも同じだが、私は書く時にはいつも、この話を文章にするにはどういう方法が一番いいのかを考えつつ、書く。キャラを立ててから話を考える人もおられるだろうが、私の場合はまず大まかなストーリーだ。それから設定、キャラの順。そこからさかのぼってストーリーの練り直し……以下延々と繰り返し。面倒だが、ここが一番おもしろい(^o^)
で、基本的にＲＰＧなど物語がはっきりしている物の場合、その流れを大事にして描く。主人公もできるだけプレイヤーキャラにする。というのも、ＲＰＧの場合はゲームの追体験という要素が重要だと思うから。全くゲームから離れたサイドストーリーを書くのは簡単だが、それはファンの方の楽しみに残しておきたい。同人誌などではそういうものが主流だろうし。
設定はあるが物語がはっきりと存在しない格闘ゲームになると、いかに設定を上手く組み合わせて物語を造り上げるかがメインになる。後は個人的な趣味でひたすら格闘シーンを描くのみ。キャラの持ち味が引き出せれば成功である。
まあ、しかし、ゲームは一プレイヤーとして遊ぶのが一番。仕事がからむと最も重要な楽しさという要素を感じている余裕がなくなるからね。
さて、皆さんはノベライズ、どう読んでおられますか？
Ｐ.Ｓ.エピソードの羅列を奇麗なグラフィックで見せるような作品は感情移入がしづらい上、文章化は思ったほど簡単じゃない。ゲームというよりアニメのノベライズをする感覚に近い。さて、某大作ＲＰＧのハードを移しての新作は感情表現がどうなるか。あのキャラではさらに感情移入が難しくなるんじゃないかと思うこの頃である。
ノベライズ作家はゲームの夢を見るか？
〔1997.1〕
今回はノベライズの現場とゆー奴をちらっとのぞいてみる事にしましょう。あんまり突っ込むと問題があるかもしれないので、ちらっとだけね(^_^;)
実例として取り上げるのはサターンの某アクションＲＰＧである。
さて、ノベライズというものは元となるゲームや映画、アニメなどが話題になっている時に発売しないと売れ行きにもかなりの影響がある。当たり前の話だけど、もう上映終了してから映画のノベライズを売ってもまず売れない。上映前から直後くらいがピークになるでしょう。ゲームの場合も同じで、出版社としては遅くとも発売直後の１ヶ月以内には出したい訳です。そして、作家はそのさらに前に書き始めなければいけない。私の場合は１ヶ月で一冊書くから、発売の２ヶ月くらい前にはストーリーなどをゲーム会社や編集者と打ち合わせて準備を終え、執筆に入らなければならない。しかし、当然その頃にはまだゲームは完成していない事が多い。いや、ほとんどそうだろう。で、どうなるか？ 完成前のβヴァージョン（未完成品）を借りてきてプレイする事になる。うらやましい？ 冗談ではない。完成品ではないからバグはあるは、難易度調整も完璧じゃないからやたら難しかったりするのである。それを数日で終えなければいけない。
のしかかるプレッシャー。
立ちはだかるバグ。
さながら格闘である。ええ、闘いましたとも、睡眠けずって……。それにもかかわらず、攻略方法を聞いても突き破れない壁が生じてしまった時、敗北の文字がドスンと落ちてきました。あの時は目の前が真っ暗になりましたね。すがる思いで編集者に連絡をして、なんとか完成版に限りなく近いソフトを借りられました。何とかクリアしたのは、最初にプレイしてから一週間後。なんか、苦労したのが馬鹿馬鹿しくなるような簡単さのおまけ付き(;_;) なんと新しいソフトだと、ものの一日で最初から全部クリアできてしまったではないですか！ 私の五日間を返してくれ〜と叫んだのはいうまでもありません。 これで終わったようですが、もちろんそんな訳はありません。これからが本番です。プレイしながらビデオに撮っておいた画面を参考にして、文章にしていきます。面倒です。しかし、ノベライズの第一の目的は《プレイした人が追体験をする》事だと思っていますので、これは重要な仕事です。某アニメのノベライズでも同じ考え方ですので、いちいち台詞を聞き取りながら書いてます。どちらも脚本があれば助かるんですが、たいていの場合、最終的に変更がなされる場合が多いので、やっぱり完成版を見るしかないんですよね。時間はかかりますが、その方がストーリーを理解できるし。
そんなこんなで格闘しつつ、一ヶ月半。ノベライズはゲーム会社のチェックなどを経て完成です。短いのか長いのかは読者のご判断にお任せいたします。あ、そうそう、誤解のないようにいっておきますが、このゲームはよくできていました。本当なら仕事抜きでゆっくりやりたかったんですがねぇ。この辺りがノベライズ作家の悲哀とゆーやつでしょうねえ。
今月のタイトルへの答え――もちろん見ますとも！ ただし、悪夢でしたが……(TﾍT)
格闘ゲームと格闘する方法
〔1997.2〕
さて、今回はノベライズの話題第三弾とゆー事で、格闘ゲームについて。私が書かせていただいた格闘ゲームといえば残念ながらサターンじゃなくて他の機種なんですが、まあ方法がそう変わる訳もないでしょうからいいでしょう(^_^;)
最近の格闘ゲームにはキャラクターに詳しい設定があります。テックサターンの読者の皆さんならおわかりでしょう。誕生日なんて当たり前。食べ物の好き嫌いや趣味まで決められています。これがＲＰＧならプレーヤーとの自己同一化は非常に困難になりますが、格闘ゲームの場合は元々自分じゃない（当たり前か）訳ですから問題はないんですね。プレイしている人の気持ちとしては「俺の××は凄いぜ！」とか「私の○○に何すんのよ！」ってなノリじゃないでしょうか。持ちキャラ＝自分ではなく、親友か恋人のようなものなんですね。
話を元に戻して。ノベライズする際のストーリーの基本はやはりＲＰＧと同じです。あまり変えない事。そして、すでにあるものをいかに巧く使って組み立てるか。
格闘する理由（父の仇、強くなるためetc.）は各キャラ毎にはっきりしていますから、ストーリーを作る時にはそのキャラの設定をまず見渡します。まあ、誰を主役にするかでほとんどストーリーは決まるでしょう。大きな流れが決まったら、おもむろにあみだくじ――じゃない、格闘技の種類やキャラの相関関係を考えて組み合わせを決めます。自分が見たいシーンを描くために最適の組み合わせ。これが理想。
さて、実際に描く場合、ゲームだと技が決まればヴィジュアルでわかりますが、文章ではわかりにくいのでそこをどう処理するかという問題があります。これがメディアの違うものの最も大きな問題でしょう。絵で描いて格好いいからといって文章でも格好いい訳ではないのです。文章には文章の格好よさがあって、それをどう描くかがポイントです。
この辺りが一番大きな問題になるでしょう。主役キャラの技が文章で書いたら格好良くないなんて不幸極まりない。例えばの話、実在の格闘家にクリス・ドールマンというのがいますが、決め技が裸絞め――早い話、背後から組みついて太い腕で頸動脈を絞める技――なんですが、お世辞にも格好よくない。実際に見ていると凄い迫力なんですが、文章で書くとねちねちとしてしまって爽快感がない。そりゃまあ、そういう小説にするんならともかく、それが本意ではないんですね、ノベライズって。
私的格闘ゲーム小説論
〔1997.3〕
さて、前回に引き続いて格闘ゲームの話から。
格闘ゲームのノベライズする時の本意とはなんぞやとゆー、問題であった。
まあ、単純にいってしまえば、読み終えた後、「結構面白かったじゃん」と思ってもらえればいいのである。その一瞬のために書いているのだ。もっとも、それはノベライズに限らない訳なんだが、格闘ゲームのノベライズの場合、その面白さは《ぎちぎちに書き込まれた格闘シーンを読んで疲れさせる》という事ではなくて、できるだけゲームに近い面白さ――具体的には技が決まってすかっとしたあの時の感覚に近づけなくてはならない。個人的にそう思っている。
もっと簡単にいえば、プロレスや格闘技の試合を見ていて贔屓の選手が勝った瞬間の高揚感。あれだ。決して自分が出場して汗まみれ、傷だらけになって勝ったようなリアリティではない。痛さや辛さを度外視して、達成感だけを味わう。良いとこ取りのおいしさ。その辺りの感覚を巧く描き出すのが格闘ゲームのノベライズなのだと思う。ゲームと現実との違いだと言ってもいいだろう。
でも、格闘技の一ファンとしてはやっぱりぎちぎちと関節が軋むような描写も入れたいし、頭部に打撃技を食らった時に胸を去来する一瞬の想いなんかも書きたいのである。しかし、そっちに重きを置いてしまうと、わずか一冊だけのノベライズで一体何試合入るか？ 例えばの話、夢枕獏氏の格闘小説を読んでもらえれば答えはわかるだろう。三試合が限界だ。下手すりゃもっと少ないかもしれない。この辺りのバランスが実は一番難しいのである。下手に格闘技が好きだから、自分で余計に難しくしてしまっているんだろうが……。
で、偉そうな事を言っている私のノベライゼーションだが、目標とするバランスがあちこちに振れている。あるところではゲーム（ファンタジー）寄り。あるところでは格闘技（リアリティ）寄り。なかなか理想通りにはいかないものである。とはいえ、理想通りにいったとしたら、それ以上の物はどうあがいても書けない訳で、それはそれで困る。いつの事やらわからないし、永遠にそんな物は書けないかもしれないけどね。
もうひとつ、現在の格闘ゲームの方向として絵としてのリアリティがある。緻密に描き込まれたキャラクターたち。しかし、その動きは非現実的だ。そのギャップがゲームとしてのリアリティを崩し始めているような気がしてならない。
というところで、紙面が終わってしまった。格闘ゲームについてもう一回続くかもしれないな。
格闘ゲームの現実と虚構
〔1997.4〕
格闘技とゲームの最終回（いつの間にそんなシリーズになったんだ？）の今回は格闘ゲームの問題点に関して。
このところの格闘ゲームの画像の美しさには感心するしかない。ポリゴンのぎこちなさなど今は昔。丸みを帯びた体のラインや体の動作にあわせて動く衣装や髪の毛。さらには表情らしきものまで描かれている。家庭用ゲーム機でもかなりの線まで再現しているのには驚かされる。
しかし、である。画面上のキャラは一見リアルな人間のように描かれているのに、その動きはどうしてああも非人間的なんだろうか。軽々と人間の身長よりも高くジャンプ（ブルース・リーでもそんな事はしないぞ）し、倒れている相手を片足で軽々と押しやってしまう。ゲームとはいえ、あまりにも不思議な光景である。そんな事を考えたのか、某ハードの某３Ｄ格闘ゲームは高くジャンプはできないし、関節の動きは妙に人間的に調整されていた。ところが、そうすると今度はキャラの動きがみんな似通ってしまう結果になり、キャラの差別化が難しくなってしまった。おまけにキャラデザはバトルアニメなどでも超有名な漫画家なもんで、そのギャップゆえにあまり評判は芳しくなかった。このキャラならもっと非人間的な技が似合うとゲーマーは考えたのだ。難しいものである。
このように、キャラの外見上のリアルさと動きのリアルさも突き詰めれば人間とどこまで同じにするかという微妙な問題に行き当たる。小説や映画でもそうだが、その中でしか通じないリアルさというものがある。たとえばＳＦ映画などで何だかよくわからないデザインのメカが出てきても、その中で上手く動いていれば納得させられてしまう事がある。映画の中ではそのメカはリアルなものとして存在するのである。ゲームとしてのリアルさも同じだろう。ゲームの中では現実として認められるような法則がそのゲームにあるかどうかが問題なのだ。とはいうものの、外観はアニメ、動きは人間（逆だと外観は人間、動きはアニメ）というのではプレイヤーの心の中にズレが生じるのではないか。見た目の派手さとキャラの書き込みばかりで競争している感のあるポリゴン格闘ゲームだが、そろそろ今や当たり前となっている非人間的な動きを改善してもいいのではないだろうか。リアル路線を追求していくなら、この点を考えてもらいたい。逆にアニメ的な派手さを追求するのなら、下手にリアルなキャラを使わない方がいいだろう。良識ぶった事を言うつもりはないが、あいまいな現実感を持ったゲームはゲーマーの精神に影響しないとは言い切れない。
とまあ、小難しい話は置いておいて、画像に関しては行き着くところまで行ってしまった感のあるヴァーチャファイター３だが、次はどうするのか。とりあえずの興味はそこに尽きる。
とゆーところで、最近のサターンといえば、やはり話題の『エネミーゼロ』であろうか。期待したほど映像が奇麗ではなかったのが残念だったが、音楽にマイケル・ナイマンを起用したのに驚かされた。しかし、ナイマンで宇宙ホラーというのもなかなか思いつかない人選である。まあ、誰がやっても同じような曲だったけど。
というところで、次の話題はゲームと音楽か？
映画と音楽の関係――まずは映画から
〔1997.5〕
今回は趣味に走って映画音楽の話。
私の小説やホームページを読んでくださっている方ならおわかりの通り、私の音楽の趣味はかなり極端である。一方にはハードロック／ヘヴィメタルがあり、他方には映画音楽がある。その間には一時代を築いたテクノポップ、民族音楽、クラシックがあるのだが、比率が大きいのといえば、このふたつである。どこかに共通点があるのかと言われれば、ないこともないくらいなもんで、あまり深く考えていない。まあ、ハードロック／ヘヴィメタルとクラシックというのは結構結びつきがあるんだが、ここでする話じゃないのでパスしておこう。問題は映画音楽なんである。
ここで言う映画音楽とはスコアの事である。もっと簡単に言うと、映画のシーンにあわせてバックで鳴っている音楽だ。最近はヴォーカル曲が鳴る場合も多いが、あくまでもスコアのみの情景描写を助ける音楽を指す。
はっきり言ってメジャーな音楽ジャンルではない。作家の笹本氏が初めて私の部屋に来た時、山のように積まれたＣＤを見て「こんなもん集めてるのがいるんだねえ」と言われたのを私は忘れていない。確かにそうそう転がっている訳はないとは自覚していたが、面と向かってそう言われると困ってしまう。思わず、『俺ってそんなに珍しいのか』と自問してしまったくらいである。しかし、それで商売が成立するくらいのスケールはあるジャンルなのも確かなのだ。多分、これを読んでいる人の中にも『ブレードランナー』の限定版サントラＣＤが欲しいという人もいるでしょう？ マニアの心をくすぐる事が商売の秘訣なんである。
さて、映画音楽が他の音楽ジャンルと決定的に違うのは、元々映像があるという点だ。さかのぼれば、歌劇やヴァーグナーの楽劇と同じである。『ニーベルンクの指輪』から《ヴァルキューレの騎行》だけを取り出して聴いているのがサントラだと思えばよい。舞台セットがなくなってフィルムになったのが映画なのである。音楽なんてそんな重要なものかとお思いの方。音楽のない『スターウォーズ』が面白いだろうか？ 『ＩＤ４』の大統領の演説で音楽がなかったらあれほど燃えるだろうか？ 答えは簡単だ。そんなもの面白い訳がない。バックに流れる音楽は観客の大半が意識しないが、重要な要素なのである。
どんなものでもそうだが、当然映画音楽のつけかたにも上手い下手がある。しかも、その技量によっては映画の出来を左右する場合もある。音楽を変えただけで別のシーンのように見える場合もある。ハリウッドでは通常、音楽は撮影が終わって、フィルムを編集する段階から作曲が始まり、すべて終わった段階で録音される。つまり、ひとつひとつのシーンにあわせて曲が作られているのである。上手いものほど、シーンにぴったりとあっている。１秒でもずれたら効果がないほどである。残念ながら日本の映画界はそれが出来ない。総予算が少ないため音楽に予算がかけられない上、時間的にもそんな事をしていては間に合わないからだ。何とか改善して欲しいものだ。
しまった！ ここからゲーム音楽の話に行くはずが、つかみだけで紙面をオーバーしてしまった。以下次号に続くという事にしよう(^_^;)
映画音楽は鳴らすだけではいけないんです
〔1997.6〕
前回は映画と音楽の関係だったが、もう少し突っ込んだ話をしてみよう。
映画において音楽――ここで音楽というのは、いわゆる劇伴である。最近ではスコアと呼ぶ事が多い。バックグラウンドに流れる音楽の事――をつける場合、一番簡単なのがそのシーンの雰囲気にあわせるだけのものだ。もう一歩進めると、シーンの中でもカットにあわせて音楽も展開していく。さらに進歩すると、人物の心情に入り込んで、まるで台詞のように音楽を操ってしまう。
例えばの話、格闘シーンで二人が対峙し、今にも闘いが始まりそうなシーンを考えてみよう。
リズムを刻むような緊張感のある音楽を流しておけば、それなりに格好はつく。しかし、シーンは幾つかのカットに分かれている。例えば、ふたりのアップを交互に見せたり、舞台となる背景をロングにしたりという具合だ。その場合、カットが変わるタイミングに合わせて音楽も変えてしまう。もちろん、ひとつの曲としてつなげたままだ。リズムが変わったり、弦楽器が入ってきたり、メロディが変わったり、やり方は色々だ。これをフィルムにあわせて作曲するという意味で、フィルム・スコアリングと呼んでいる。映画音楽を作曲するには、最低この手法を理解していなければいけない。ただ、どうしても音楽が最後になってしまうので、スケジュールがきつくなりがちだ。最近はＳＦＸの進歩で簡単に映像が修正できるため、作曲している間にもどんどん尺（時間）が変わっていくという弊害があり、作曲家の苦労は増えているらしい。コンマ一秒でも変わればタイミングがずれる訳で、また調整し直さねばならなくなるからだ。さらにフィルムスコアリングの技法が進歩すると、ふたりの内心の緊張感や不安感といった感情まで音楽で表現してしまう。例えばヴァイオリンの弦の震えで不安を、徐々に音量を上げて感情の高ぶりを、といった具合だ。実際はこんな簡単なものではないが。これを最初に行ったのは、ヒチコックの映画『サイコ』などを手がけているバーナード・ハーマンという作曲家だ。今でもここまでできる作曲家は数えるほどしかいない。
言うまでもないが、映画音楽にとって最も大事なのは観客に音楽を意識さえない事だ。どれだけ力を注いだとしても、邪魔をしてはいけない。裏方の難しいところである。
う、また枚数が足りなくなった。なんだか映画音楽入門書みたいになってしまったが、ゲームと音楽については次号でまた(^_^;)
さて、サターンでないのが恐縮だが、最近のゲームでは『クーロンズ・ゲート』がおもしろかった。こういう作家性が全面に出たものって、なかなか商売として成り立ちにくいのだが、ここまで趣味の世界をやってくれると拍手したくなる。映像と音楽でトリップ（逃避？）できる凄い作品だ。どうしても受けつけないという人もいるだろう――それほど好き嫌いがはっきりと分かれる――が、一見の価値はある。ただオーソドックスなアドヴェンチャーなのでゲーム性には乏しいのは残念だ。とはいえ、最近のＲＰＧもアドヴェンチャーゲームと同じと言えなくもないからねえ。
ゲームにおける音楽／ゲームは映画に迫るか？
〔1997.7〕
音楽の話題、今回はようやくゲームと音楽についてである。
さて、コンピュータゲームと音楽は初期から切っても切れない関係にあったのは言うまでもない。複雑な効果音や声など出せない状況で、音響面でゲームを特徴づける重要な要素だったのだ。単純なリズムと平坦なメロディだけで昔はよく頑張ったものである。それが今やフルオーケストラと声優の声でゲームを盛り上げる事ができるようになった。凄い進化だ。いや、ホント、隔世の感がある。
さて、音楽の方法論（というと難しいから、音楽の付け方でいいか）はハードの進化に相応しい進化をしただろうか？ これを映画音楽の方法と比べながら考えようと思う。
音楽が特に重要なゲームといえばＲＰＧだろう。確かに格闘やシューティングも重要だが、同じパターンが繰り返され、ＢＧＭの扱いから出ていない。映画のように物語を音響面から説明する方法として使われている訳ではない。例えば、自分のキャラのＨＰが少なくなるとサスペンスフルな音楽が、楽勝ムードになれば威勢のいい音楽が……というように自由自在に切り替えられるのであれば、音楽によってプレイにも効果がつけられるだろう。もっとも対戦格闘の場合はふたり分の音楽が必要になり、難しいだろうが。
ＲＰＧも演出に音楽が取り入れられるようになった。ただ、大半がイベントシーンでの効果に重きを置き、それ以外は相変わらずの垂れ流し状態で終わっているのが残念だ。せっかくの大容量ＣＤ−ＲＯＭなのだから、ムービーだけに使うのはもったいないと思うのだが。フィールドシーンでも昼夜の違いや、キャラの状態、天候などで音楽が変わればおもしろいのではないだろうか。戦闘シーンにおいては格闘ゲームと同じアプローチができるだろう。
ところで最近、ＲＰＧをやっていて、ふと感じた事がある。昔はキャラがレヴェルアップした時、すかさずファンファーレが鳴ったものだが、最近のＲＰＧではそれがあまりない。ハードの仕様には詳しくないが、ＣＤからダイレクトにＢＧＭを鳴らしているためにさらに別の音楽を流せないのではないかと思う。多分、メモリカセットからＣＤ−ＲＯＭに変わったために、内蔵メモリに効果音を読み込んで鳴らしているので余力がなくなったのではないだろうか。あのファンファーレも立派な音楽だ。シーンにあわせているという意味ではフィルムスコアリングの基本だろう。
しかし、いうまでもないがゲーム上ですべてフィルムスコアリングをしようとすれば、ゲームではなくなる。すべて強制イベントやムービーにしなければ無理だ。プレイヤーの意志が入ってきた途端、コントロールできなくなるからだ。先に書いたように戦闘シーンでも主人公のＨＰによって自由自在に音楽を変えられるシステムが出来れば、ＲＰＧもある意味で映画を越える事ができるだろう。それこそインタラクティヴなゲームの登場である。
映画音楽を軽視しがちな日本映画界とは反対に、ゲーム業界には音楽の重要性を認識し、音楽に（もちろんゲームの内容にも）力を入れて欲しい。映画音楽とゲームのファンとしては、そうなってくれる事を願っている。
さて、今回はインターネットの話題
〔1997.8〕
昨年中にインターネットは崩壊するなんて予言した人もいましたが、（表面上は）何の問題もなくインターネットは動き続け、増殖し続けてます。まあ、個人レヴェルではホームページがどうしたとか、E-mail（インターネットで送る手紙ね）で原稿送ったとか、そのくらいでしょうから、パソコン通信とそんなに変わる訳ではないんです。それに、個人的にはパソコン通信の方が使い勝手がいいし、おもしろいと思ってますから。特にメール（パソコン通信で送る手紙ね）は着信を確認できる分、送りっぱなしのインターネットより確実です。
話題のホームページですが、このところのブームで増殖した個人ページの大半は同人誌がタダで世界中の人に見てもらえると、そんな感じでしょうか。中にはもう一工夫して欲しいというような代物もありますし、プロはだしの凝った代物もあります。その辺りもまさしく同人誌の世界そのもの。
以前、私のホームページ”虚房/FICTORY”開設中とプロフィールに書かれてましたが、順調に稼働してます。原稿を書いている時点で７ヶ月目に突入しました。同人誌にもできないくらいマイナー調で、中身は仕事の紹介と日記、趣味の映画音楽の紹介。容量の大半は映画音楽です。マイナーな分野なもんで、アクセス数はそれほど増えないのが難点。別に増えりゃいいって訳でもないんですが、月平均８００アクセス。リピーターが多いのは、マイナー分野の特徴ですね。
作り始めて最初の３ヶ月ほどは『プリンセスメーカー２』の娘よろしく、こうやったら格好がいいぞとか、ああやったら見やすいぞとか、考えつく事はとりあえずやってみたりしてかいがいしく面倒を見てました。アクセスカウンターが増えるのを見て喜んだり、思いもかけないE-mailに驚いたり、リンクを張ったりして、いや、可愛いもんです。親バカ丸出し状態。
それがとりあえず今の形に完成された５ヶ月目から落ち着き始めました。手が掛からなくなってきたんですね。デザインが出来上がってしまえば、データ更新の単純作業になってしまいますから、見かけよりも中身で勝負になるのはわかりきってます。それでも、たまに全部デザイン変えようかなと思ったりもします。暇がないので断念してますが。
加えて、ブラウザ（ホームページを見るためのソフト：ネットスケープなど）によって使えないタグ（ホームページを作る簡単なコマンド）があったりして、誰でも見られるようにするには限界があるってのも、ひとつの原因でしょうか。しかも、聞くところに寄れば、またヴァージョンアップするとブラウザ固有のタグがまた増えるとか。便利なのはわかるんですが、ユーザーとしては困りものです。とかいいながら、自分のページでもフレーム機能（画面を幾つかに分割するタグ）使ってるので、誰でも見られるという訳ではないんですが。
私のページもいつの間にやら容量が２Ｍbytesを越えてしまいました。メインがサントラ紹介なのでジャケットの写真を載せている分、画像で容量が食われてしまうんですね。どこまで増えるのか自分でも不安です。
インターネットとパソコン通信
〔1997.9〕
前回に関連してインターネットとパソコン通信の事など。
先日（って５月半ばだけど）、自分のホームページに掲示板を設置した。ホームページ増強計画の一環である。その前にはトップページの構成を変えて見やすくした（つもり）。ホームページを作るにはHTMLという簡単なコマンドを組み合わせてやる必要がある。すべてのコマンドがすべてのブラウザに通用する訳ではないというのは前回も話した通り。
トップページを修正した理由はトップにはフレーム機能を入れない方がいいと判断したのと、雑誌に紹介された時に見栄えが悪かったからだ。フレーム機能というのは画面を幾つかに分割する手法で、画面はみやすくなるけど、ブラウザやブラウザのヴァージョンによっては見られない。これもHTMLの不完全なところだ。加えて、デザイン関係の仕事をしていたせいもあって、自分の意図したものとかけ離れたように見えるのは非常に気になる。とはいえ、ブラウザの種類によって表示は違うし、パソコンの種類によっても変わってくる。すべてに同じように表示されるのは不可能だ。となれば、せめて少しでも近く見せたい。そう考えての修正なんである。
もうひとつの増強――掲示板というのは、ホームページを見るだけではなく、他の人からも書き込みして欲しいと考えて作ったページである。今のＷＷＷ中心のインターネットは個人の情報発信には向いているが、結局は送りっぱなしの一方通行になってしまっている。それではおもしろくないと感じたのだ。特に映画音楽などというマイナージャンルに絞ったページを作っていると、双方向の情報が重要になる。自分のページを中心に映画音楽好きの輪が広がってくれれば最高だと思う。ちなみに掲示板は少し改造すればチャットもできるようにはなる。まあ、今でもできなくもないけど……。
でもねえ、チャット専用のホームページなら誰かいるだろうが、こういう普通の――しかも、アクセス数のさほど多くないページでチャットなんて意味がない。チャットというのは不特定多数の人と話ができるからおもしろいのであって、２、３人で話すんだったら電話の方が手っ取り早いのである。それ以上にチャットするならニフティなどのパソコン通信の方が遙かに使い勝手がいい。それにどんな人が何人いるかもわかる。インターネットではそれが見えない。いや、方法はあるのかも知れないが、個人レヴェルでは見えないはずだ。
現在はインターネットとパソコン通信がしのぎを削り、互いの得意分野を取り込もうとしているようだが、個人的にはどちらも共存していって欲しいと思う。どちらも電話回線を使って情報のやりとりをするので、同じようなものだと勘違いしている人もいると思うが、このふたつは基本的に違うものだ。人間同士の個人レヴェルでの情報交換という点ではパソコン通信の方が確実かつ迅速だろう。
どちらが生き残るかという事ではなく、インターネットもパソコン通信もしょせんは道具であり、手段でしかない。近未来にはふたつが融合するかもしれない。それまでは目的に合わせた使い分けが肝心だろう。
作品のおもしろさとヴィジュアルについて
〔1997.10〕
最近、気になっている事がある。
映画やゲームのおもしろさとは何だろうかという事だ。つまり、映像と音響効果を伴った物語において、おもしろさってのは何なんだろうかという疑問だ。
そんな事を思ったのも、某大作恐竜映画と某ＲＰＧのせいだ。どちらも期待していた作品だが、おもしろいとは私にはとうてい思えなかった。色々と原因はあるのだが、共通しているのはひとつ。どちらも視覚的聴覚的な刺激という点では現時点での最高レヴェルにあるのだろうが、物語が――あるいは脚本が全くなっていないという点だ。これをノヴェライズしろと言われたら頭を抱えるだろう。もちろん、映像と同じ迫力を文字で伝えるという困難は想像を絶する。しかし、それ以上に細部のほとんどを新たに考え直さねば、理屈が通らないというのが大きい。
文章で物語を作るというのは理屈の積み重ねだ。理屈抜きのおもしろさという言葉もあるが、そういう物もちゃんとひとつひとつ手順を踏んでそれがさりげなく構築されているからおもしろいのであって、本当に理屈がない訳ではないのだ。しかし、問題の二作品には理屈が感じられない。どうしてこうなるの？と何度首をひねった事か。もちろん、私の理解力が足りないという可能性もあるが。
物語に関していえば、恐らく時間的な制約のために練り不足が起こっているのだろうと思う。システムの中で締め切りを設定されて作るとなれば仕方がないのかもしれない。それは作家だって同じ事だ。わかる。わかるが、それでもアレはないだろうと言いたい。特にスピルバーグ！ 演出家としては認めるが、もっと頭使って映画撮れよ。もっと良いスタッフ使え。最近のハリウッド映画は頭を使っていない脚本が多いぞ!!
おや、年甲斐もなく興奮してしまったな(^_^;)
ところで、その二作品について他の人に感想を訊くと、凄かったとか綺麗だったとかいう答えがまず返ってくる。で、話はどうだったのと訊くと、これがあやふやな答えしか返ってこない。おもしろかったという人に限ってこうだ。思うに視覚的な効果に気を取られて、物語としてのおもしろさにまで気が回らなかったのだろう。
物語の作者として、この風潮（そこまで大袈裟なものではないかもしれないが）には危機感がある。どんなに良い物語であっても視覚的に良くなければおもしろいと思ってもらえない。しばらく前にはジュブナイルファンタジー小説でその傾向が顕著だった。良いイラストに恵まれないと手に取ってもらえないという状況があった。
私は作家もパッケージングに責任を持つべきだと考えている。つまり、イラストやタイトルなど書店で見かけた時に最初に目につく部分のプロデュースだ。売れる売れないという問題だけでなく、ヴィジュアルによって読者のイメージまでも決められてしまうのだ。作品の本質に関わる可能性だってあるのだから、決して極論ではないだろう。すべての商品にはふさわしいパッケージングがある。小説にも当然あるはずだ。そんな事を考えるのも、私が広告畑の出身だからかもしれないが。
電子ペットの時代/それ、おもしろい？
〔1997.11〕
この前（といっても７月末）、ＴＶでホンダ技研が作った人型ロボットを紹介していた。ご覧になった方もおられるだろう。身長１８０センチ、体重２１０キロと人間と比べてもそれほど変わらない（関取くらいだ）ロボットだ。四肢があり、ある程度は自立的な動きが出来るし、段差もプログラムなしで自分で判断して対応できる。かなり高度なものだ。ロボットが歩いているのを見ていると、私たちの子供の頃に手塚漫画で見た夢がようやく実現に一歩近づいたという感慨を感じる。
その数日後にはソニーが仔犬を模したペットロボットを開発したというニュースがあった。こちらはプログラム通りの動きしかしないが、各種センサーで飼い主の動きにあわせてお手や伏せ、ボール遊びなどの仔犬がやりそうな動作をそれなりの可愛さで行うというもの。将来的には販売を考えているというからには、価格も家電製品と同じくらいの手が届く程度に設定できるのだろう。
しかし、ペットの代わりにって、これを買う人いるんだろうか？ いや、どんなくだらない商品でも買う人は少しは存在するのだから、正確にはそれで経営が成り立つくらいに売れるのだろうか？
確かに最近はポケット型のペットシミュレーションゲームが話題になっている。これをペットを飼う事の代償行為だとかいう論評が目立つが、それは違うと思うのだ。あくまでも携帯ゲームの延長でしかないのではないか。その証拠にこうやればこのキャラに育つとか隠れキャラの出し方といったゲーム攻略となんら変わらない話題が多いではないか？ 本気で感情移入してペットを育てているのなら、こんな話題は出てこないはずだ。望みの姿に育たなかったからといって餌をやるのを止めたとか、そんな事を本当のペットでするだろうか？（いや、するかも知れないから怖い）
それと同じ事がロボットペットにも当てはまるのではないかと思う。
実は最近故あってハムスターを飼っている。ティカという名のジャンガリアンのメスだ。とても可愛い(^_^;) 知り合いが猫を飼っていたりするので何か飼いたいとは思っていたのだ。子供の頃は庭に鶏や兎がいたし、今も実家ではインコを飼っているが、すべて自分で世話をするのは初めてだった。
それにしても、こうやって実際に飼ってみると色々な事で驚かされる。思ってもみない反応を示したり、もう意外性の連続といってもよい。考えてみれば、人間だって同じなのだから意外ではないのかもしれない。しかし、これをすべてプログラムするのは不可能だ。そうすると、ロボットペットもただマネをするだけの遊園地の仕掛けと同じではないか。そんな物に生きたペットと同じだけの愛情が注げるだろうか？ 携帯ペットと同じで、中途半端な感情移入しかできないと思うのだ。
生き物に勝る物は生き物しかない。機械では限界がある。では、生体部品で造られたロボットならどうだろうか？ 幸いというか『ブレードランナー』のように生体部品で作られた人間や動物が登場するまで、まだしばらくは時間が必要なのだろう。しかし、そうなった時、果たしてペットはどうなるのだろうか？