著者校正前の原稿ですので、実際の文庫とは違う個所があります。ご了承ください。
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恐ろしかった。
ボクは初めて目の前のモノに触れるのをためらっていた。
一旦梱包した段ボール箱からもう一度取り出し、箱は乱暴に転がっている。包んでいたビニールも引きはがして部屋の隅に飛ばされてる。
モノは縦横三〇センチ、高さ一二センチの直方体。つや消しブラックで、天辺にオレンジ色の立体ロゴ。名前はＦＬ：Ｓｉｍ。
二日前までは怖いなんて感情はなかった。それどころか楽しかった。それなのに、今は怖かった。どうしようもなく怖かった。
でも、やらなくちゃいけない。
そう思ってツバを飲み込む。
やらなくちゃいけない。逃げちゃいけない。
でないと、アイツが死んでしまう。無実なのに罪を着せられて殺されてしまう。
たとえ、この世界とは別の世界でも、アイツはそこで生きているんだから。
それにアイツはボクのことを受け入れてくれた。何の関係もないボクに友達みたいに接してくれた。ボクもアイツのことは大事なんだ。だから、これは当たり前のやらなくちゃいけないことなんだ。
第一、それができるのはボクだけなんだから。
ボクはツバを飲み込んでヘッドセットをつけると、耳元にあるスイッチに手を伸ばした。
アイツとの出会い――。
それは一週間前。同じようにヘッドセットをつけて、こうやってスイッチを押し込んだ時から始まった――。
１：異世界アクセス
１
ブンッ……。
テレビをつけた時みたいな低い唸りがした後、一瞬視界が真っ暗になった。
「え？ どうなってんの？」
焦って手を伸ばそうとした次の瞬間、視界が一気に広がった。
正面から照りつけるオレンジ色の太陽。
どこまでも真っ直ぐに伸びる茶色の道。
視界いっぱい左右に広がった緑の絨毯。
視界は絶え間なく上下して気分が悪くなるくらい。
どこだ、ここ？
考えた途端、答えが浮かんできた。
［レセシア女王国西部のラゼ村からクレナ村へ西に向かう街道］
ボクが知ってるわけはない。これはヘルプメッセージだ。ついでにマップが頭に浮かんできた。
ちゃんとアクセスできたみたいだと一安心する。
視界は大きく上下している。歩いている感じじゃない。ペースもずいぶん速くて、風を切るような感じだ。
それにしても目に映る光景は凄い臨場感だ。臭いとか手の感覚はないけど、実際に目で見てるのと変わらない。ゲームでいえばＦＰＳってヤツだ。
何か肩に担いでいるのか、左腕の肘が視界の左で揺れている。腕の筋肉は総合格闘技の選手なみだ。
視界の真ん前に何かあると思ったら、動物の頭みたいだ。これに乗っているらしい。
［クルック――この世界での馬］
またヘルプメッセージが聞こえた。
なるほど。いかにもファンタジーらしい設定だ。別世界なら生き物も名前も違うのが当たり前だもんな。
そういえば目線の高さがいつもより高い。前しか見えないから気づかなかった。
馬の蹄の音じゃなく、ザッザッザッと土をひっかくような音だ。後頭部だけしか見えないからどんな生き物なのか見えない。
「ねえ、バード。お腹すかない？」
いきなり右側から声が飛んできた。明るい女の子の声だ。
クルックの足音はひとつじゃない。他にもいるんだろうけど、視界は前を向いたままだから。コントローラがあればスティックを左右に倒したいところだけど、どうも視界がこのキャラの視界に限定されてるみたいだ。
「昼に食べたばかりよ、アル」
これは左側から。女っぽいけど、ちょっときつい感じ。
「まだすいてねーよ。アル、おまえ、太るぞ」
ちょっと軽そうな男の声。これは聞こえたというより響いてきた感じ。ボクがアクセスしてる相手がしゃべったらしい。戦士というだけのプロフだったから、どんな相手なのかわからない。もちろん自分の顔だから見えない。
顔も見えないのはマイナスだよなとチェック。一応モニターらしく問題点とか感想を送れるようにしておくのがいいんだろうし。
「太ってないですよーだ。こんな強行軍についてくと体力使うんだから」
「わたしは大丈夫だ」
「リジアは背が高くて足も長いもんね」
「クルックに乗ってるのに関係ない」
ふてくされた声が右から。
ステレオとかサラウンドとかいうより、生で聞いてるのと同じ感覚。しかし、しゃべっている相手が見えないってのはじれったい気分だ。声としゃべり方だけで相手を想像させようって趣向だろうか。
とにかく、自分はバードという男で、右にアル、左にリジアという状況はわかった。で、バードは戦士。村から村に続く道を歩いているってわけだ。
と、ようやく右下に視界が動いた。
最初に目に入ったのは明るい茶色の髪だ。相手の頭がバードの胸までしかない。
ふいっとその顔がこっちに向けられた。
うわっ、かわいいっ！
思わず声を上げそうになったが、声はどこからも出ない。
茶色の髪を短く刈ってる。それが男っぽくないのは服装のせいかもしれない。淡いレンガ色のシャツで、胸元はヒモで編み上げてある。襟や裾には刺繍が入ってるのがオシャレだ。下は同じ生地のキュロットスカート。年はボクと同じか少し上くらいだろう。小柄なくせに胸はかなり自己主張している。
ついでにクルックの姿も見えた。ダチョウとトカゲの中間みたいな感じで、二本脚で走ってる。背中が曲がっていて、そこに鞍を乗せている。鞍には荷物袋。結構力持ちの動物らしい。目がクリクリして愛嬌があるといえばあるのかな。
バランスを取るみたいに左に向いた視界にはすぐに顔が飛び込んできた。相手の身長が高かったせいで顔は下を向かずに目線だけ下げた感じ。
美人だ……。
印象的なのは銀色の髪の毛。それを後ろで束ねている。ポニーテールなんだけど、先端は腰くらいまである。かなり長い。服装は薄い紺色のシャツで、飾り気はない。下はパッと見でジーパンに近い。
リジアは確実にボクより年上だ。二〇歳くらいかなって感じ。胸の自己主張はちょっと控えめ。
なんか対照的なふたりだ。
それにしても、どうしてバードはこんなかわいい娘と美人のお姉さんと一緒にクルックで走ってるんだろ？
身長があって、そのうえこの境遇。ボクなんかあの娘に何も言えないままだってのに、うらやましすぎだ。
「しょうがねぇな。クレナに着いたら休憩するか」
バードの声が言う。
「おーし、やったーっ！」
アルはガッツポーズをすると、それまでのダラダラした動きがウソのようにしゃきっと背筋を伸ばした。
「そーと決まったら急ぐわよー。それ！」
クルックの手綱をピシッと言わせると、そのままバードを追い越していった。なんか気ままなネコみたいだ。クルックは跳ねるように駆けていった。走り方や後ろ姿はがっしりしたダチョウみたいだ。
「現金ね」
リシアの冷静な声。
「しょうがねー。こっちも急ぐか」
バードが言うと、リシアがため息を漏らした。
「アルには甘いんだから」
駆けていったアルの背中を見送るバードにリジアがつぶやく。
「まあ、走らせても一時間くらいかかるからな」と笑みを含んだバードの声。
「意地が悪い」
リジアがささやく。
視界の隅っこにリジアの左腕が見えた。腕をからめるようにして真っ直ぐに棒を持っている。槍かと思ったけど、穂先がない。ただの棒にしては先端に鉄球みたいなものがついている。
武器だな。
直感でそう思った。バードが戦士なら一緒にいる相手も戦士だと考えてもいい。となるとアルもそうなんだろうか？
考えてみたがちょっと想像がつかない。でも、走っていくアルの左右の腰にホルスターみたいなものがあって、Ｌの字に曲がった棒のようなものが差してあったのを思い出す。あれが武器かな？
「さて、行くか」
バードはクルックを少し早足にさせて後を追った。
自分が走っているわけでもないのに、ボクが全力疾走してるのと同じくらいの速さで風景が視界を流れていく。風を感じられないのが不思議なくらいの臨場感だ。
そのままどれくらいバードの中にいたのかわからない。そろそろ村が見えるのかと思ったけど、そんな様子もない。
その時だった。
いきなりどこからかプーッと電子音が聞こえたかと思うと、視界が真っ暗になってしまった。
２
ログアウトしたショックで一瞬目が見えなくなったけど、すぐに元に戻った。
目の前には小さな段ボール箱くらいのモノ。
色はブラックのつや消しで、ゲームマシンというよりもパソコン本体だ。他のゲームマシンよりも二回りほどでかい。ディスクを入れるトレイもカートリッジを差すスロットもない。あるのは裏側の電源スイッチと正面の起動スイッチだけ。
起動スイッチの横からケーブルが伸びて、ボクのこめかみから額を覆うヘッドセットにつながっている。起動スイッチはヘッドセットの脇にもあって、普段はこっちを使う。
本体上部にはオレンジ色の幾何学的なデザインで、《ＦＬ：Ｓｉｍ》と立体的なロゴ。これがこのマシンの名前だ。
『最新テクノロジーでファンタジー世界をシミュレート！』を売り文句に半年ほど前に発表があった。ＦＬってのはファンタジー・ライフの略らしい。Ｓｉｍはシミュレーターだろう。
すぐにネットで情報をゲットして、即モニター募集に応募した。忘れた頃に送られてきたのが今日。学校から帰ってきてマンションの入り口にある不在ボックスに入っていたのだ。すぐさま開けて、取説なんか読まないで接続し、たった今試したところだ。
「どうして急に切れたんだろ？」
ヘッドセットをはずして、マシンの電源を切る。かなり大きな作動音が静かになった。
テレビの前には三台のゲームマシン。その横には宅配便の伝票が貼られた段ボール箱。宛先は有森静。ボクの名前だ。
乱雑になっているのは接続ケーブルを抜いてＦＬ：Ｓｉｍとつなぎ変えようとしたところで、モニターケーブルがないことに気づいたからだ。不思議に思ってケースを見たらコントローラもない。本体にはケーブル接続用の端子はひとつだけ。それがヘッドセット用だった。
「なんか妙だよな」
やっぱり読んだ方がいいかなと、ぺらぺらの取説を手に取る。
三〇ページくらいの薄い冊子だ。最初の方は誰にもわかる取り扱い注意なのですっ飛ばし、本題に目を通す。
最初の一文に思わず口を開けて声を上げた。
ＦＬ：Ｓｉｍはゲームではありません。
「ええっ？」
最新のゲームマシンだと思ってモニター応募したのに、なんだよ、それ。
確かにコントローラがないんだからプレイヤーが手で操作するわけじゃないとは思ってたけど。なんか、がっかりだ。
ＦＬ：Ｓｉｍを装着した瞬間から、あなたはリアルに構築されたファンタジー世界の生活をリアルにシミュレートし、まるで本物の世界のような生活を経験していただけます。
つまりヴァーチャルリアリティの世界ってことだけど、確かにさっき見た世界は凄かった。モニターじゃなくて直接脳に映像を送り込んでるからだろう。
アクセスには神経に負担がかかります。九〇分以上連続の使用はリミッターが作動して強制的にログアウトするようになっています。
神経に負担ってマズくないのかなと思ったけど、テレビモニターだって見すぎて視力が落ちるんだから似たようなもんだろう。
なお、初めてお使いの時は三〇分で一旦ログアウトするようになっています。再度アクセスされる場合は体調の変化がないかお確かめの上、お願い致します。
そうか。さっきいきなり切れたのはそのせいか。やっぱり取説は最初に読んでおくべきだったかも。
しかし、ずいぶん体に負担がかかるって脅してるような気がする。ちょっと不安だ。まさかβモニターって人体実験のこと？
それこそまさかだと首を振る。
そんなことしたらメーカーがどんなことになるかわかってるはずだし。
とにかく、一日九〇分ってことは、後一時間アクセスできるってことだ。
取説を読み進めると、舞台になっているレセシア女王国についてザッと説明してある。あまり詳しくはないけど、それは最近のゲームにありがちなオンラインヘルプってのがついてるからだろう。さっきみたいに音声とマップで説明が出るんだ。
もちろん、ゲームじゃないからコントローラーのボタン配置とか技表とかはない。
レセシア女王国の時間の流れはこの世界とシンクロしています。こちらが朝なら向こうも朝、こちらが夜なら向こうも夜です。九〇分をどう使うかはあなたの自由です。
では、あなたの異世界生活をお楽しみください。
なるほど。だから、夕陽が西にあったんだな。
それじゃ、残りの一時間をどう使うか、いつ使うか考えないといけない。
今は五時四八分。母さんが帰ってくるのはどうせ九時過ぎだ。時間は充分ある。
まだゲームの中の時間も夕方だ。それに村に着いてるかもしれない。
ヘッドセットを装着して、ボクはもう一度スイッチを入れた。
視界が暗転し、そして、また切り替わった。
あれから二〇分もたっていないから、バードたちはまだ道を歩いていた。
なんだ、もうちょっと後でもよかったな。
綺麗な風景でもずっと見ていたら退屈する。しかも、バードの目でしか見られないからほとんどよそ見をしない。左右にいる女性キャラを見てくれたらいいのに。サービス精神のないヤツだな。
そんなことを考えていたら前方に小さく屋根が見えてきた。
「着いた着いたっ！」
歓声を上げながらアルが駆けていく。
クララ村とかいうところだろう。
［クレナ村］
ヘルプメッセージに突っ込まれてしまった。しかも一文字しかあってないし。
屋根が見えてからさらに五分ほど進んで、ようやく村の全体が見えてきた。
正面からは道の左右に五、六軒の家が見える。道は村を貫くように伸びているようだ。煙突の数は数えてみると、三〇軒くらいの家があるらしい。これが村として大きいのか小さいのか、ちょっとわからない。
村の入り口辺りで人が言い争っているのが見えた。
激しい口調の声が脅すように聞こえる。ボクは反射的に身を固くして、その体がここにないのを思い出した。正確にいうと心が萎縮したってところだろうか。
全部で七人いた。三人の男と四人の男が言い争っている。三人組は荷物を担いでいるから、村に来た旅人だろう。腰に剣をぶら下げている。
「とっとと入れろってんだ！」
三人組のひとりが脅すように言う。
「どうしたんだ？」
緊張した雰囲気にそぐわない声を出したのはバードだ。クルックから飛ぶように軽く降りて人の中に入っていく。
「あんたたちは？」
村人たちが疑わしげな目で見た。
「旅の者です。西に行く途中です」
バードの脇にやってきたリジアはまったく相手の視線に動じることなく答えた。
「ふん？ あんたは持ってねぇみたいだな」
村人たちの視線がバードたちの腰の辺りを探るように動く。最後にやってきたアルの腰で視線が止まったが、すぐに外れる。
「ああ、刃物はないぜ。見ての通り徒手空拳だ、オレはな」
え？ ひょっとして戦士なのに、バードって剣持ってないわけ？
意外というかがっくりというか、複雑な心境だ。
「こいつらは手放さないで村に入ろうとしおったんで止めていたのだ」
確かに三人組の腰には長い剣がぶら下がっている。しかも、一振りじゃない。これ見よがしに三本も差してるヤツもいる。
「通り抜けるだけならかまわないだろうが」
ガラの悪い男が突っかかる。
「悪いが村の決まりでな」
「手放して歩けるか！ 腰が軽くてかなわねえや」
「それでも決まりは守ってもらわにゃな」
「やるか、おい？」
気色ばんだ男が村人をにらみつける。
「預かるだけなら少し我慢すりゃいいじゃねーか。大人げねーな」
「おまえみたいな腰の軽いヤツに何がわかる」
バードの言葉を一蹴し、男がバードを押しのける。
「通るぞ」
男たちは剣を抜き放って村人たちに突きつけた。
「ぶっそうな物はしまった方がいい」
いつの間に回り込んでいたのか、リジアが男たちの前に立っていた。
男たちの方からはリジアが持っていた棒はちょうど後ろになって見えない。それも知らないで男たちは口笛を吹いて、下品な声を上げた。
「美人だねぇ、あんた」
「姉ちゃんはオレたちと別なことをした方がいいぜ」
ふたりがリジアを挟み込む。アルには目もくれないのはどうしてだ？
「リジア、オレがやろうか？」
「野郎はすっこんでな！」
バードの方を向いていた男が抜き放った剣を振り上げ、真っ直ぐに振り下ろしてきた。
剣が眉間に向かって飛んでくる。いや、ボクには見えなかった。多分、ボクが同じ目にあっていたら何が起こったのかわからないまま斬られていたに違いない。
ガキッと金属の音がしたかと思うと、目の前に誰かの背中があった。
「あっぶないわねー」
アルだ。ジャンプして剣を弾き返したのだ。
「バードが死んだらどうしてくれるのよ」
その両手には腰に差してあったＬ字型の金属棒。トンファーのように短い方を握り、長い方を腕に沿うように構えている。
［ブーダグ――この世界の武具］
ヘルプメッセージの訂正が入った。
「死なれるのは困る」
リジアがあまり困っていないような口調で言う。
その足元には男がひとり倒れていた。いや、棒で腕を後ろにねじり上げられて、動けなくしていたのだ。格闘技でいうと関節が極められたってとこだろうか。
［シャルム――この世界の武具］
またヘルプメッセージだ。
わかりましたよ。トンファーみたいなのはブーダグ、鉄の先端がついた棒がシャルムでしょと繰り返す。
その時にはアルの体は軽やかに舞い、ブーダグで男の頭を殴っていた。あっという間に昏倒させる。
このふたり、いったい何者？ 賞金稼ぎか何か？
「お、おまえら……。何者だ？」
たったひとり残った男がボクの疑問を口にしてくれた。こいつらと気が合っても嬉しくないけど。
「ただの通りすがりの旅人だっつったろ？ 記憶力のねーおっさんだな」
まるで嘲笑するように答えるバード。体が揺れたのは肩をすくめたのかも。
「まさか、査察士かっ!?」
男が及び腰になるのを、バードは黙って見ている。
「だーったら、どうするって？」
アルがブーダグを風車みたいにクルクルと回しながら意地悪く訊く。
「う……」
男は黙り込んでしまった。
「どうする？」
とどめを刺すようにリジアが棒と膝で関節を極められた男に言う。
苦痛で声も出せないのか、男はのどの奥で呻いただけ。
「好きにしろ」
もうひとりの男は剣を捨てた。
「今のうちに剣を取り上げときな」
バードは村人たちに向けて言い、男から視線をはずした。
その瞬間、男が動いた。地面に落ちた剣の柄を蹴り上げてつかむと、アルの背後に回って羽交い締めにしてしまった。胸が突き上げられる格好になって、ますます大きく見える。萌えファンがいっぱい出そうだよ、これ。
「油断したな」
剣をアルの頬に当てて凄む。
「バード、ごめん〜」
アルがあまり危機感のない顔で苦笑しながら謝った。
あれ？ ボクが見えたってことは、バードにも見えてるはずじゃないか。
その疑問を裏付けるようにバードの口調には驚いた様子はなかった。
「危ないからやめた方がいいっつったぞ」
どう聞いても人質を取られた男のセリフじゃない。
「ふざけるな。それ以上近づくとこのかわいい顔に傷がつくぞ」
「かわいい顔だって！ ねえ、聞いた、バード？」
「まあ、そういう意見もあるだろうなぁ」
絶対、その意見の方が多いと思う。
「あーん、お嫁にいけなくなっちゃうー。バード、もらってくれる？」
「遠慮しとくわ」
「あーん、くそー！」
アルが悔しそうに体を揺する。胸も揺れる。う、殺人的だ。これってこういうキャラゲーなのか？
「ふざけた話してんじゃねえ！」
「訂正しよう。ふざけてはいない。おもしろがっているだけだ」とリジアがまだシャルムで仲間の男を押さえつけたままつぶやいた。
「なんだと？」
男が驚いている間にバードは人質のことなんかお構いなしに距離を詰めていた。手を伸ばせば届くところまで近づいていた。
「て、てめえ！」
男はアルをバードに突き飛ばすと、剣を真っ直ぐに突き出してきた。
ボクが見えたのはそれだけだ。バードの右腕が動いたのはわかったけど、どうしたのかはわからない。斬りつけられたはずの剣はバードには届かず、ビィンと妙な音がしただけ。
男は自分が持った剣を呆然と見つめる。先端が消えていた。
「お、折れ、た？」
「ちょっと違う。折れたではなくて叩き折った――が正しい」とリジア。
「折った？」
「ちなみに先端はおまえの足の上だ」
リジアの冷静な言葉につられて下を見た男は悲鳴を上げて地面に転がった。剣の折れた切先は男の靴から突き出ていた。どう見ても足の甲に突き刺さってる。
「だから刃物は危ないっつったろーが」
呻く男から剣を取り上げると、村の人に渡す。アルとリジアも他の男の剣を取り上げて渡した。
さっきと比べて村の人々の態度が妙に堅苦しい気がする。
「査察士様、この村に何か問題でも？」
声もがちがちだ。バードは安心させるように丁寧に答えた。
「いや、さっきも言ったとおり、この西に用があるだけだ。食事と宿を頼めねーか？」
「わかりました。宿の者に伝えておきますのでごゆるりと」
村の男たちは剣をしまう者と、怪我人を運ぶ者に分かれて村に戻っていった。
「さて、行くか」
バードが歩き出すと、
「ご飯ご飯ー」
アルは能天気に駆けていく。
子供みたいだな。
思わず笑みが漏れてしまう。
「まったくだな」
バードのつぶやきにギクッとした。声が聞こえてるんだろうか。いや、まさかだよな。
バードの様子を見てみたけど、今は全然反応しない。
うん、きっと偶然だ。
そう考えながらもあまりおかしなことは考えないようにする。
バードたちは宿屋に行き、それから食事を食べるつもりか酒場に向かった。ファンタジーの王道だなぁ。
と、その時――。
［残り三分です］
ヘルプメッセージが聞こえてきた。
ええっ？ もうか？
その時、いきなりバードが声を上げてグルグルと空を見回し始めた。。
「なんだ、今の声は？」
ボクは怒られたように肩をビクッとすくませ、反射的にヘッドセットのスイッチを切ってしまった。
ブツンって感じで目の前が真っ暗になった。
「今の、まさか、ボクの声が聞こえたとかいわないよな……」
腰が抜けたようにへたり込んで、つぶやく。そして、強ばった笑いを漏らした。
「何考えてんだよ。ただのシミュレーションじゃないか。そうプログラムされてるのに決まってんじゃないか。お化け屋敷みたいなもんだ。プレイヤーを脅かして飽きさせないようにする工夫に決まってる」
そんなことを言いながら、ボクは自分がかなり驚いているのに焦っていた。ゲームでこんなに驚いたのは初めてだったからだ。小学校の頃からゲームを始めて以来、こんなに感情が出てのは初めてだったのだ。
とにかく、明日は土曜日だ。学校は昼までだから、午後からは時間がある。確かめてみよう。
ボクはそう決めた。
３
家を出た時は晴れていたのに、学校に着く頃には雨が降り始めた。
衣替えが終わって制服が冬服になってから初めての雨だ。まだちょっと暑い日があるけど、今日は涼しい。
それはいいけど今日は一時間目から数学で、気分が重い。ボクはどっちかというと文系だ。ゲームマシンのスペック程度はわかるけど、プログラムはてんでダメだ。
さらにいうと、運動もダメ。背も低いし、顔も普通。ギャグが言えるわけでもないし、歌が上手いわけでもない。要するに目立たない地味な中学三年生ってこと。唯一の取り柄はそこそこ勉強ができて、お陰でそこそこ難しい私立中学に入れたってくらいだ。
共北学園中学――それがボクの学校だ。
高等部もあるけど、もっとレベルの高い高校に行くように母さんから言われてる。来年の受験に受かったら来年からは遠くに通わないといけない。まあ、顔をあわせたくないヤツもいるからいいけど……。
「よう、シズカ」
校門をくぐろうとした時、背後から声をかけてきたのは北畑雄二。もの凄くよく言えばゲーム仲間。普通に言えばボクにたかってくるイヤなヤツらのリーダー。
「何だよ、その顔？」
雄二はボクの顔を見て不満そうな顔をする。
「別に」
「おまえがシズカなのはしょうがねーだろ、シズカ」
「その名前を連呼するな」
こいつに限らず、ボクが嫌がるのを知って名前を呼ぶ。どうして静なんて女っぽい名前をつけたのか、父親に文句を言いたいくらいだ。でも、その当人はもう家にいない。
「今日、遊びに行くぜ。いいよな、シズカ？」
「今日は――」
頭を巡らせる。家に誰もいないのをいいことに無茶苦茶にされるのは目に見えてる。何か理由をつけないといけない。
「なんだよ？ いいよな？」
決めつけるように言う。
「親が来る日だから」
「ああ、親父か。しょうがねぇな」
雄二は舌打ちした。
「来週は行くからな。食い物も用意しとけよ」
そう命令すると、雄二は仲間のところに向かっていった。
調子のいいヤツだ。それにスポーツもできるし、顔だってボクよりは目立つ。多分、ああいうのが社会に出ても上手く出世するんだろうな。
と、暗い気分のボクに背後から明るい声が飛んできた。
「おはよ、有森くん」
振り向く間もなく声の主は風のように駆けていった。
「あ、おは――よ……」
ボクの声は途中で消えてしまう。
椎名若奈――それがあの娘の名前だ。
身長はボクより少し低い程度。ボクは一六〇センチ足らずであまり高くない。ちょっとクセのある長い髪の毛が走るとカーテンのように揺れる。クラスでも、いや、学年でも学校でもファンは多い娘だ。明るくてスポーツが得意でかわいいのを鼻にかけたところがない。貴重な女の子というのが男たちの評価だ。
ちょっとした世間話がきっかけになってボクの頭から離れない存在になってしまった。
あれは一年の夏休み前。放課後に雄二や他の友達が先に帰った時、たまたまふたりだけになった。そんなことは後にも先にもあの時だけだ。
帰ろうかとしたら椎名が声をかけてきた。
「有森くんってシズカって呼ばれるのがイヤなの？」
椎名と話したことは思い出せる限り、なかった。いきなりの質問だった。
「う、うん」
「どうして？」
答えようかどうか迷って、椎名の顔をチラッと見た。別にからかってる様子もないし、他の男もいないから、話す気になった。
「女みたいじゃないか。外見もそうだから」
「そうかな？ いい名前だと思うよ」
「え？」
意外なことをいわれて椎名を凝視してしまった。その視線を避けるように、椎名は天井を見てつぶやくように言う。
「わたしを友達がなんて呼んでるか知ってる？」
急に話が変わって戸惑いながら答える。
「ワカだっけ？」
「そうよ。ワカよ。まるで時代劇の若殿様みたいじゃない」
「そういえばそうだよね」
「ちょんまげでもあるみたいでしょ」
クスクスと笑った椎名は長い髪を束にまとめて頭の上に乗せてみせた。
「似た境遇ね」
椎名がボクを見て笑った。
「名前に負けるなんてバカらしいからダメよ」
その時、廊下の方から声が聞こえた。
「ワカ〜」
「あ、来た」
ちょっと顔をしかめた椎名は立ち上がってカバンを持つ。
「それじゃね、シズカ」
手を振って椎名が駆けていく。
「う、うん」
何も言えないまま、椎名は廊下に消えてしまった。
「シズカだって……」
口の中でつぶやく。シズカって呼ばれるのは相変わらず好きじゃないけど、椎名に呼ばれるシズカは何となくこそばゆいような、妙な感じだった。正直に言うと、とても気持ちよかった。
椎名に呼ばれたからだよな、きっと。
椎名の唇から静という言葉が出たところを思い起こして恥ずかしくなる。
もっと、呼んで欲しい。
そう思った。
その時から椎名はボクの心に特別な存在になってしまった。
とはいっても、それから話をしたことはない。なんか意識してしまって、それにボクなんかが釣り合う相手じゃない。上級生からも声をかけられてるみたいだし、イジメられるネタが増えるだけだ。
二年はクラスが別になったけど、三年でまた一緒になった。
授業中、椎名はボクの斜め右の席に座っている。それを見てるだけでよかった。残り四ヶ月くらいの間だけど。
学校が昼過ぎで終わって、ボクはすぐに帰宅した。一時間で通える距離だから、二時前には家にたどり着いた。
「ただいま」
誰もいない家に入ると返ってくるわけのない挨拶をする。
テーブルの上にはメモがあった。今日も母さんは遅いらしい。
途中でコンビニに寄って買い込んできた弁当とスナックを抱えて、部屋に行く。
もう四年くらい同じパターンで、慣れっこになってしまった。深夜に母さんが帰ってきても声もかわさない。父さんは出ていった。女を作ったらしい。母さんは仕事で帰りが遅いっていってるけど、本当はわからない。廊下に酒の臭いがする時が多いし、タバコは吸わないのに服には臭いがついてるし。
それくらいは子供にだってわかる。甘く見ないで欲しい。
ボクは掃除と洗濯をして、その代わり、小遣いをたくさんもらう。母さんとはそれだけの関係だ。父さんとはそれ以下の関係。
まず洗濯機を動かし、その間に弁当を平らげる。新発売だっていうんで選んだけど、思いっきり失敗だった。味が濃すぎる。ペットボトルのお茶をがぶ飲みしてちょうどいい感じ。洗濯機は乾燥まで自動でやってくれるから、終わったら取り出して畳むだけだ。少ししかない台所の洗い物を片づけて、それから洗濯物の仕上げにかかる。
終わったら三時半になっていた。
今からＦＬ：Ｓｉｍでアクセスすると五時までだ。
昨日のバードの声が不安だったけど、多分気のせいだ。余計なことは考えないで楽しもう。なんせただのシミュレーターなんだから。
イスに座ってヘッドセットをつける。そして、本体のスイッチを押し込んだ。
ブンッと自分の意識が押されたような感覚がして、視界が一瞬暗くなる。そして、気がついたら視界が思いっきり動き回っていた。
な、何だ!?
グルグル回り、上が下に右が左に視界が回転する。
酔いそうだ。ゲームでいう３Ｄ酔いってヤツだ。一人称の視点だともの凄い。
バードが何をしているのか、ようやくわかった。バク転と側転をもの凄い速さでやっていたのだ。自分ではそんなことできないから理解できなかった。そうか、こういうふうに見えるんだなと納得。
そして、バードは動きを止めた。目を閉ざして息をゆっくりと吐き出す。
これだけ動いたのにバードの息はまったく荒くない。
目を開けると、少し離れたところにアルが立っていた。
「バード、やる？」
アルがブーダグをクルクルと回しながら声をかけてきた。
「いいぜ」
言いながらバードは両手を前に構える。
太い腕とごつい指が目の前に見える。腕には傷跡が幾つも見えた。
素手でやるのかと驚いた時にはアルが迫っていた。ブーダグがクルッと回って顔に襲いかかった。
こんなのに殴られたら骨が折れるじゃないか！
逃げたくなったけど、もちろん体は動かない。
いきなり視界が沈み込んだ。
ブーダグがブンッと風を切って頭の上をかすめていく。当たったら絶対頭蓋骨陥没だ。
バードは立ち上がらずに身を低くしたままアルに踏み出した。アルの体が目の前に迫る。
服の上からでも突き出した胸のボリュームがわかる。Ｅカップくらいあるかな。
が、バードは胸なんか興味ないのか視線をそらしてしまった。視界がぐるっと回った。
何が起こったのかわかったのは次に視界がアルに向いた時。
アルは背中からひっくり返っていた。バードは体を回して足でアルの足を払ったんだ。
バードは間髪をおかずにアルに拳を向ける。
アルも凄い速さで反応した。立ち上がりざまに片方のブーダグを投げつけ、同時に残ったブーダグを振るった。
飛んできたブーダグを左腕で弾いたところに、もう一方のブーダグがバードの腹にめり込む。
バードが呻く。
衝撃は感じられなかったけど、バードの様子でダメージはわかった。
うわっ、本気だよ。
しかし、バードがひるんだのは一瞬だけだった。アルがもう一度攻撃する隙を与えないで、前に跳ぶ。
アルは今度は横からじゃなく下から腕を振ってきた。ブーダグがアッパーカットのように伸びてくる。
バードはその腕を右手で叩いた――ように見えた。
それだけでアルの体は見えない何かに体当たりされたみたいに半回転していた。
バードはその隙にアルの左腕を取って背後に回り込むと、首に腕を回して締め上げてしまった。
アルは動こうとするががっしりと食い込んだ腕はほどける様子はない。
「そこまで」
リジアの落ち着いた声が響いた。
バードが腕を緩めると、アルは身をふりほどいてブーダグを投げつけた。
「ああ、もうっ！ また負けたーっ!!」
アルは本気で悔しがってる。本当に子供みたいだけど、身近に感じられる。
「八つ当たりしない」
リジアが素っ気なくたしなめる。まるでお姉さんだ。
「私とやりますか？」
シャルムをつかんだリジアが構える。バードも手を顔の前に持ち上げた。
あんなのとやりあったらマジで殴られるだろ!?
心の中で悲鳴を上げるた時、バードが視線を左右に泳がせた。
「おい、昨日と同じヤツだな？ どこにいるんだ!?」
いきなりバードが声を上げる。
「どしたの、バード？」
アルが不思議そうに訊く。
「今、声が聞こえたろ？」
「な〜んにも」とアルは首を振り、
「いや、聞こえなかった」とリジアはバードを怪訝そうに見つめる。
「そうか？」
バードは唸って、周囲を見回す。
「さっき頭でも打ったとか？」
アルが笑いながら言うのと対照的に、いつも冷静そうなリジアが真剣な顔で近づいてきた。アップになるとホントに綺麗だ。でも、腕には小さいけど傷跡がいくつか見えた。手をこっちの頭に伸ばして尋ねる。
「冗談事ではない。大丈夫か？」
「おいおい、アルに打たれたのは腹だぞ」
軽くいなすと、バードは周囲を見回して歩き出した。
「ちょっと散歩してくる」
「バード？」
怪訝なふたりの声が追ってきたけど、バードは無視して進んだ。
「何者だ？」
人気のないところまで来て、小声でつぶやく。
心臓がドクンと跳ね上がった。やっぱり聞こえてるのか。
「気のせいか？ それともオレは気がふれたのか？」
聞こえてない？
「そうだな。気のせいだな」
よかった。ボクの気のせいだったみたいだ。
「気のせいのわけねーだろ！ おい!!」
え？
「勝手にオレの頭の中でしゃべるな！」
バードが初めて感情をあらわにした声を上げた。
「レセラ神の使いなのか？」
［レセラ神――レセシア女王国の最高神］
か、神様!?
「違うのか？ では、ラゼラの誘惑か？」
［ラゼラ――レセラに敵対する存在。悪魔のような概念］
あ、悪魔!?
わけがわからない。ゲームでプレイヤーがキャラに詰め寄られるなんてありなのか？
「どうなんだ？」
ど、どっちでもないってば！
「では、何者だ？ 城の魔法使いか？ オレの様子を探っているのか？ だったら報告しておけ。オレは何の問題もなく査察士の職務に励んでいるってな」
魔法使いなんているのか？
内心で驚いてから思い出した。モニター募集の最初の質問にあったっけ。希望する職種――戦士、神官、魔法使い、農民、漁師、猟師、あと幾つか。
「違うのか？ なら、どうしてオレの頭に話しかける？」
そういわれてもボクにもわからないってのに。だいたい、どうしてゲームのキャラに負けてるんだよ？
「妙だな、おまえのその話し方」
バードが唸る。
「その様子だと、おまえ、まだガキ――」
でっ、出直してきます！
ボクはとっさにスイッチを切ってログアウトしてしまった。
目が慣れるまでしばらくかかった。
気がついたら口を半開きにして荒い息をしていた。
どうなってるんだよ？
ボクはＦＬ：Ｓｉｍを見つめた。
これが普通なんだろうか？ それともこのマシンがどこかおかしいんだろうか？ 情報が少なすぎるのが悪いんだよな。
そう考えて、今まで考えてもいなかったことを思いついた。
そうだ。ネットだ。忘れてた。
届いて二日目だから、どこかでサイトを立ち上げてる人がいるかもしれない。掲示板で情報交換できるかも。
さっそくパソコンを起動した。すぐにブラウザを開いて検索サイトにアクセスする。キーワードにＦＬ：Ｓｉｍと入れて検索開始。すぐに一〇〇以上のヒット。一番上に出てきた公式サイトは除いて、それらしいところを順番に見ていく。公式サイトってどうも情報が遅いし、少ないんだよな。
中のひとつに掲示板があった。ざっと見ていると、他のサイトの紹介があった。検索にはヒットしなかったサイトだ。検索じゃ最新の情報はなかなかヒットしないし、検索されないように工夫しているところもあるからだ。
アクセスすると、そこはレンタル掲示板だけのサイトだった。サイト名はシンプルに『ＦＬ：ＳｉｍワールドＢＢＳ』だ。
発送日に立ち上げて、すでに二〇〇以上の書き込みがある。
「凄いなぁ」
書き込みの量も凄いけど、書いている人の多さがハンパじゃない。
一昨日に届いた人もいるのか、実際にプレイした人の書き込みは四月二三日の昼過ぎから始まっていた。最初の方はゲームじゃないことの怒りと裏切られたような書き込みが多いみたいだ。
発言タイトルをざっと見て、おもしろそうな書き込みだけ拾い読みする。
『今日は二時間魚釣ってました』
そんなタイトルがあるかと思うと、『ほとんど観光ツアーだね』なんて感想もある。『癒し系？』ってタイトルの発言はこうだ。
――農民でアクセスしてます。会社に行く前と帰ってからアクセスすると気分がリラックスするね。新しい癒し系ですね、これ。
ちょっと理解できないけど、そういう人もいるのか。多分、作った人は想像もしていない使い方なんだろうな。
――自キャラが酒飲んでんのに指くわえてるだけなんてのは拷問だね。ソッコー、切ってビール飲んだよ。
色々な書き込みがある。でも、キャラがプレイヤーに話しかけたなんて書き込みは誰もしてない。
どうしようか。書き込んでみようかな。
そう思ったところで気になる書き込みを見つけた。
――そろそろ中を見たヤツいないか？
買った機械の中をまず確認するって人の話を聞いたことはあるけど、実際にこういう書き込みあるんだな。凄いのは、すぐ後にレスがついていること。
――まだー。ちょと不安あり。もう二、三日遊んで飽きてからにするー。
――オレも。飽きたらやるつもり。
――明日開けるぞ。
――どうだったかレポよろしく。
明日も見てみないとな。
そう思って、ブラウザのお気に入りに登録した。
以下続く……