LEGEND SPECIAL

SOUNDTRACK REVIEW
LEGEND SPECIAL

　特別企画という事で、題して『レジェンド：光と闇の伝説』考。
　まず、簡単に今まで出ている盤を紹介しよう。
　A)はゴールドスミス・スペシャルでも紹介しているゴールドスミス版（以下ＪＧ版）サントラ完全版ＣＤ。B)はタンジェリンドリーム版（以下ＴＤ版）サントラＣＤ。何の事はない。G)のＬＤのアップである。C)はＪＧ版サントラＣＤで、以前出ていたＬＰD)と同じ内容のもの。E)はB)と同内容のＬＰ。ジャケットが違う。F)はＪＧ版ＬＤ。日本にしかない（イギリスはPAL方式なのでNTSC方式のＬＤは日本だけなのだ）。G)はＴＤ版ＬＤ。どれもそうだが、ジャケットだけ見ると、主役は魔王なのがよくわかる。しかも、どれも非常に格好いい。ＴＤ版ＬＰなど最高である。デザインもいい。
　映像に関してはベースはＪＧ版だが、ＴＤ版では冒頭やラストに追加撮影された映像が入り、編集し直してある。加えてブライアン・アダムスとジョン・アンダーソンのヴォーカル曲が２曲挿入されている。ただ、追加撮影分は特殊メイクのロブ・ボッティンが担当していないので、かなりごまかしてある。照明もよくない。ラストの魔王の台詞など、ＴＤ版の方が良い部分もあるものの、やはり映画としてはＪＧ版の方に軍配が上がる。あまりレベルの高い争いとも言えないが(^_^;)
　さて、音楽であるが、その前になぜ『レジェンド』にヴァージョンあるのかおさらいをしておこう。
　元々はＪＧ版で全世界配給をするはずだったのだが、アメリカでの興業を担当していたユニヴァーサル映画の会長（当時）だったシド・シャインバーグがこれでは若者に受けないと指摘し、急遽音楽の変更と再編集を言い渡したのである。監督のリドリー・スコットは自分の映像には音楽など大した要素ではないという思想の持ち主なので、音楽変更には異を唱えなかったらしい。そして、ブライアン・アダムスとジョン・アンダーソンのヴォーカルがフィーチャーされたＴＤ版ができあがった訳である。ちなみにシャインバーグは『未来世紀ブラジル』のカット騒動でテリー・ギリアムと戦った男である。他にも『Ｅ．Ｔ．』続編構想など、はっきりいって迷惑な事が多い。幸いな事にアメリカ以外の配給は２０世紀ＦＯＸだったので、日本ではＪＧ版が公開された。
　タンジェリン・ドリームはシンセロックバンドである。これまでの映画音楽担当作品でもリズムを基調にした無機質で機械的なアプローチをしてきた。それがこの作品ではリズムは全面に出ず、雰囲気作りを重視したＢＧＭとして徹底している。ＴＤらしくないのだ。その理由が元々ついていたＪＧのスコアにあったのは想像に難くない。これがシャインバーグの意図どおりなのかどうかはわからない。しかし、アメリカでのみ公開されたＴＤ版の散々な結果を見れば何となくわかるだろう。
　一方、ジェリー・ゴールドスミスのスコアは傑作である。ヒロインの歌が重要なモチーフになって、作品全体を締めているところなど、ＪＧならではのスコアばかり。ＴＤ版にはその歌がなくなって、作品としてもレベルが下がっている。これを無視して新しいものをつけろと言われたＴＤの困惑が目に見える。『幼年期の終わり』を前にして、「人類進化テーマでこれを越える話を書け」と言われているようなものである。『ブラッドミュージック』が書ければいいが、はっきり言って不可能に近いだろう（わかりにくい例えだな）。
　スコアについて比べる場合、最もよくわかるのがユニコーンのシーンだ。なにせ物言わぬ動物である。感情を表現するには編集と音楽に頼るしかない。ここで音楽のつけかたに上手い下手が如実に出る。つがいのユニコーンの片割れが殺され、角を奪われる。死の原因を作ってしまった主人公が息絶えたユニコーンともう一方のユニコーンに謝ろうと近づく。その時、ユニコーンはどんな気持ちで主人公に対するか。ＴＤ版ではそれがはっきりとわからない。しかし、ＪＧ版では確かに怒っているのである。これは贔屓ではない。機会があれば観ていただければわかるだろう。全く同じ映像にも関わらず、ユニコーンの感情は明らかに異なっているのだ。他にも表現という点でかなりの差がある。音楽でどれだけの事ができるのかという、ひとつの貴重なサンプルだ。
　他にも魔王の間でヒロインがダンスするシーンの音楽など、力量の差が如実に現れている。ＴＤ版もオープニングなどで印象的なスコアを書いている事は指摘しておくべきだろう。しかし、２曲もの挿入歌が映画としての印象を叩き壊しているだけでなく、ＴＤのスコアをも実際以下に見せてしまっているのは否めない。無念である。